この企画について。

twitterで100題にちゃれんじ!の募集は、2010年12月31日をもって終了します。
これまでたくさんの作品をお寄せ下さりありがとうございました!
挑戦してみたいお題などがある方はお早めにお願いします。

  • みんなで100題チャレンジ!企画のおまけ企画となっております。
  • 100個も書けなくても、長い話が書けなくても、みんなで埋めちゃえばいいじゃないか!な企画です。
  • お題は、追憶の苑様より「二字熟語で100のお題その一」をお借りしました。

やりかた

  • ツイッターで#tw100tを最後にくっつけて100題を消化してみましょう。その内回収されます。
  • 挑戦する時にはお題とお題の番号が付いていると嬉しいです。
  • お題がかぶっちゃっても大丈夫! 適当に挑戦してみてください。

ご注意

  • #tw100tと本文の間には半角スペースを入れてください。半角スペースが無かったり、誤って全角スペースを入れてしまうと検索結果に反映されません。
  • hal_sigureが「現在までは回収しました」とか呟いていたのに回収されていなかったら、単に見落としている可能性もありますが、もう一度呟くか@hal_sigureを付けて呟いてみてください。

その他のご意見・ご指摘もろもろはhal_sigureまでどうぞ。


100題

001:世界

  • 「始まりはいつ?」「分からないよ」「じゃあ、終わりは?」「僕が死んだ時だ」(hal_sigure)
  • 「ふはははっ、オレのユメは世界征服だっ!」「そっかぁ、がんばれ。とりあえずは英語の赤点なんとかしなくちゃね?」(hakorua)
  • 身体全体を覆う暖かな感触。柔らかなぬくもり。笑いあう男の声と女の声。今考えると私は母親に抱きかかえられていて男の声は父親なのだろう。それは家族とのたった数カ月しかなかった、私の小さな世界。二度と味わえることのない幸せで、平凡な世界(mizmaki)
  • 憧れの冒険。気球に乗ってどこまでも。イッツ・ア・スモールワールドを口ずさみながら、地上へと彼は手を降る。舫綱が解かれ、ゴンドラは上昇していく。眩しいほどの快晴。さあ、世界を巡ろう。どんな出会いが待っているのか。大人になった少年は、夢を追う旅に出る。(tkuszono)

002:輝石

  • 覆い重なる白い雲は風に吹かれず地平の上に絶えず留まる。ああ、空が低いなと思って石を投げたんだ。けれど、道端の石は一度太陽を反射しただけで、雲には届かずぼとりと頭に落ちてきた。路端に戻った灰色の石。蹴飛ばされ転がったその先で、溝に落ちてぽちゃんと跳ねた。(ihuraruhi)
  • 「どうして……」女は嘆く。「どうして……」テーブルに載る小箱には、大粒の輝石。それはせめてもの詫びにと、渡された品。けれど、こんな物が欲しいのではなかった。女が欲しかったのは……。「どうして……」女は嘆く。いつまでも嘆き続ける。(tkuszono)

003:水鏡

  • 黄水仙が覗き込んだ泉のように、その水は深く澄んだ輝きで、広がる空を映している。(ricka_kus)
  • 映したものを気まぐれに歪め、時には逆しまに映し出す、それは異界への入口。(mmsakura)

004:歌姫

  • 『酒場の女』とひとくくりにすると、彼女は酷く怒る。彼女が売るのは、その声。そして、旋律。媚態ではなく、客を酔わせる歌である。(ricka_kus)
  • 雪解けを待ちかねて、萌黄色の蕗の芽が春を歌うように、けなげな花を咲かせて、あなたを呼ぶわ。だからどうか、薹が立つまえに、あなたの手で摘んで、私を食べてね。(hakorua)

005:守人(もりびと)

  • 守り続けよう、貴方を。幾百の昼、幾千の夜。御身が朽ち、墓は崩れ、やがて全てが土に還ろうとも。誓いのまま、守り続けよう、貴方の生きた痕跡を。(ricka_kus)
  • 彼はいつでも私の一歩前を行く。長身の彼だから歩幅も広くて、ついて行くのは少しタイヘン。「待ってよ」小走りになってる私のために、彼は歩調を緩めてくれた。「雪だな、また」彼は空を仰ぎながら、さりげなく私に手を差し伸べてくれる。「転ぶなよ」「そっちこそ!」(hakorua)

006:契約

  • 古風な羽根ペン、そして羊皮紙。平素なら笑ってしまうような道具立てだが、この男を前にすると、それすらも日常のような気がしてくる。これから私はメフィストフェレスの誘惑を受け入れ、ペンを取るのだ。署名すればもう、逃れられないと知っていて。(ricka_kus)

007:指先

  • ようやく指が通る程度のチケット売り場の隙間から、私たちは触れ合った。視線を合わすことも出来ずに、客と売り子のふりをして。それが引き裂かれた私たちの、精一杯の抵抗だった。(ricka_kus)
  • 私は良く人の指先を見る。決して指先フェチなわけではないの。探し物をしているだけ。指ばかり見ているとよく人にぶっかってしまって何回因縁をふっかけられたことやら。でもその苦労ももう報われるの。だってほら、貴方の指先に赤い糸を見つけたんだもの。(mizmaki)
  • 寒い夜、体を寄せ合って私達は眠っている。瞼をあげるとすぐそこに彼の安らいだ寝顔がある。布団に隠れてる彼の手を探して、そっと握った。温かな彼の手とちょっと冷たい私の手。指先から彼のぬくもりがじんわりと伝わってくるようで、私は幸福に笑い、そしてまた目を閉じた。(hakorua)
  • 「冬は嫌い。手が荒れちゃうから」あかぎれのできた指を隠すようにこぶしを握り、体を丸める彼女。「僕は好きだな」寒がりな彼女を堂々と抱きしめられるから。彼女の手を取り、口づけて、そして温め合おう。彼女も微笑んで応えてくれた。「冬は嫌い。でも、あなたは好き」(hakorua)

008:月光

  • 夜の中で、ただ屋根だけが銀色に光っていた。(ricka_kus)
  • 月は死と不死の象徴だと、夜の海が語る。寄せては返す波が砂をさらい、そしてまた新たな砂粒を運んでくる。真白な月にとり憑かれたように私は歩き続ける。また巡り合えるのだろうかと、海底に沈む彼を想いながら。(hakorua)

009:腕輪

  • いいなあ、腕輪……と呟く私に、彼は、にこやかに両手を広げた。何?と尋ねると、腕輪だろう?こうすればほーら!と、輪にした腕の中に私を囲い込む。あまりに馬鹿馬鹿しくて殴ってやろうかと思ったが、これはこれで心地良いので殴るのは止しておいた。(ricka_kus)
  • 夏が終わって残ったもの。2人で海に行くときに買ったビーサン。土産で貰った、よく分からん代物。そして――日に灼けた肌。この夏の間ずっと、腕を絡めて歩いていた彼女の跡が、左の腕にくっきりと残ってる。別れを嘆いてるオレをあざ笑うかのように。(lemonpop_rii)
  • 夏が終わる、彼一人だけ残して。彼がくれたブレスレット、はずしてどこへやっただろう。ごめんね。日焼けの痕も私だけが消えて。絡ませる別の腕を私だけが、もう見つけて。ねぇ、本当に好きだったよ。ごめんって今更伝えられないけれど。(hakorua)

010:軌跡

  • 男は酒を煽った勢いのまま、粗末な椅子を軋ませた。「キセキねえ、好きな言葉じゃねえな」無骨な手が腰の剣へと触れる。垢で黒ずんだ柄は無言で彼の経験を訴えていたが、対面する女は闊達に笑った。「でもアンタが歩んだ先でアタシと出会った。それもキセキって奴さ」(mcircus)
  • 呼ばれたその声に顔を上げると、空に1本の細い線が見えた。定規で引いたみたいにまっすぐ伸びている。「あ、飛行機雲」呟く前に、塞がれてしまった。あたしと彼とを結んだ、赤い糸ならぬ、白い線。(lemonpop_rii)
  • 泡立つ白い軌跡が、未練のように船を追い続いている。置き去りにしたものを思い、女は遠く島を眺めた。風が彼女の帽子を飛ばした。空とのあわいを舞った帽子は、軌跡の上に落ちて揺れる。波に揺れるそれを見つめた女は、暫し後背を向け、デッキの内に入っていった。(tkuszono)

011:封印

  • 引き出しを開けると、5年前の書きかけの原稿が鎮座していた。引き出しを閉じて、見なかったことにした。(ricka_kus)
  • 泣くもんか。泣くもんか。泣くもんか。拳を握り締めて、奥歯をぐっと噛みしめて、目頭が熱くなるのをなんとか堪えてやり過ごした。――なのに。やっと閉じ込めたそれを呆気なく解かれた。いつも小憎たらしいことばかり言うアイツの笑顔に。(lemonpop_rii)

012:聖域

  • 『入るな』と看板が立っていた(ricka_kus)
  • 暑いのは嫌だが露出が増えるのは悪くない。夏万歳!だけど。「それ、水着?」「そうよ?」いや、どう見ても普通のワンピだ。「水着と言ったらビキニだろう!」水中で彼女の腰を掴むと、「何脱がそうとしてるの?」と雷を落とされた。(hakorua)

013:道標

  • 『この先崖』と書いて置いておいた。迷子は減るだろうか(ricka_kus)

014:散歩

  • 帰宅するや否や、お犬様がリードを咥えてすっ飛んできた。はいはい。連れてけって事ね。(ricka_kus)
  • コンビニに行こうとしたところを彼女に呼び止められ、手を掴まれた。「恋人繋ぎしよーよ」「は?」「こうやって指の間にお互いの指をですねー」積極的な彼女の行動はいつものことだが。「いつ恋人同士になったよ、俺達?」「私の脳内ではもうずっとそうだけど」「……」(hakorua)

015:夕闇

  • 山の端に太陽が接吻する。藍色のヴェールがそろそろと今日を飲み込んでいく。「かはたれそ」と問う者の顔も、もうすぐに見えなくなるだろう。だが、それは決して恐ろしいことではない。安らぎの夜の到来を示しているのだから。(ricka_kus)
  • 日暮れ前の淡い水色の空に浮かぶ、透けそうな白い月。「何だか恥ずかしそうに見えるね」と私が指さすと、彼は「君もだね」と微笑み、肩を抱き寄せ頬にキスをした。気障だなって自分を笑いながら、彼は「白い月も茜色の雲も奇麗だ」なんて言って、さらに私を照れさせる。(hakorua)

016:夜風

  • あなたがわたしの髪を梳き、頬を撫で、くちびるをなぞって、強く抱きしめる。囁きは耳朶をくすぐって、胸は高鳴り、吐息が漏れた。「なぜ行ってしまわれたの」ただ優しいばかりのこの夜風は、まるであの日のあなたのよう。(border_sky)
  • 嘆きが聞こえる。ままならぬ現実を、押し付けられた意に沿わぬ取り決めを嘆く、細い声が。夜風は運ぶ、彼の元へ、死すら願うその悲痛を。「攫ってしまおうか…」ふと彼は呟く。笑みと共に口端から牙が零れた。掻き消えた姿の後に、夜風が渦巻く。 轟々と、轟々と…。(tkuszono)
  • 名も無き森で妖精達の演奏会が始まります。「ご機嫌よう、皆様。共に楽しみましょう」けれどご用心。仲間に加わったら森から出られなくなってしまうかも。だから耳を澄ませ、吹いてくる夜風に微かな音色を聴くだけにしましょうね。(hakorua)

017:雷鳴

  • 灯の無い部屋を、雷光が照らす。ほとんど間髪置かず、耳を聾す轟音。「何? 聞こえないわ!」相対する男に向けて、女は叫ぶ。男の腕が伸びる。再び雷光。そして、轟音。細い首を折られた女が、床に倒れた。彼女の悲鳴を聞いたものはいない、誰も……。(ricka_kus)
  • その音は恋に落ちた瞬間に似て、私の平穏を攫う(hina_idori)

018:異国

  • 熱気が頬を叩き、服の中に砂を運んでくる。一歩ごとに重くなる足にはもう悪態も出ない。荒い息を虚勢のマスクの下に隠せば「だから素人に徒歩は無理だといったんだ」と先を歩く案内人が肩をすくめた。軽口を無視し張り付いた髪を払えば、耳が歌にも似た喧騒を拾った。(susu_kino)
  • バックパック一個の荷物と、ジェスチャー、それに笑顔。言葉は通じなくても、意外となんとかなるもんだ。初めての風味を味わいながら、ガイドブックの言葉を実感している。(ricka_kus)
  • 緊張を押し隠して立った教壇。受け持ったクラスの生徒達は、新任教師の俺を蔑むこともなければ興味を抱くことすらない。「静かに」と制してもまるで言葉が通じないようだった。そして俺もまた、生徒達の言葉の大半を理解できない。教鞭は虚しく床に落ち、踏みにじられた。(hakorua)

019:玉石

  • 彼女の瞳が右に左にと揺れ動く。俺の目を真っ直ぐに見返そうとしながらも、戸惑いと僅かな恐怖が入り乱れていた。それを押し隠そうとしている健気を、俺はどう捕らえればいいのだろう。義眼は何も映さない。ならば、彼女の優しさだけを残った瞳で見出すしかない。(yellowsumakichi)
  • 「将来有望?それとも無謀かね」この門を潜る者たちは、いつだって玉石が混ざっている。彼らを教え導く彼には、だからこそ面白いのだ。「さあって、今年もいっちょ、揉んでやりますか!」喰らいついて来る者だけが、先へと進めるのだ。(tkuszono)
  • 「玉」と「石」、河にとってそれはさしたる違いのないもの。石は、石。しかし時勢という大河の激流が玉石を混ぜ、価値をも決めるのか。かつての「玉体」であり、時勢に押され退下させられた男は河原に佇み、流れの先を黙然と眺めていた。(hakorua)

020:刻印

  • 熱した鏝を押し当てる。ジュゥ、と微かな音。香ばしさとともに、できたての商品の背にイニシャルが刻まれた。ささやかだけど、誇らしい文字。明日には、何百という商品が流れる市場に並べられる。おいしいって記憶と共に、このイニシャルが誰かの心に残るといい。(ricka_kus)

021:傷跡

  • 「ちょっと、彫刻刀なんか持って何すんの」「続きを彫ろうと思って」「何に」「机に」「何を」「あなたの恥ずかしいエピソードの数々を」「学校の机にそんなもん彫るなー!待って!今続きって言った?!どこまで彫ったの!!」(hatomori)
  • 「これは傷跡」つうと指先が胸をなぞった。「目に見えず触ることもできず、消えることもない」つうと哀れな心臓をなぞるように。「これは傷跡。あなたへの罰」口付けを降らせ、嫣然と女は笑う。「苦しみなさい、永劫に。愛しくて、悪い男」魔女の百年の呪いが、完成した。(tkuszono)

022:足枷

  • 「ね、ちょ、これ抜けないんだけど」「だからそこ泥沼だから気をつけてっていったじゃんか。」「気をつければどうなるってもんじゃなあああい!」(ihuraruhi)
  • カラカラと鎖が鳴る。誰もいないその場所で。鳴らすのは風か、目に見えぬ何かか。カラカラ、カラカラ、鎖が鳴る。かつて足枷に繋がれた者が、鳴らしたように。繋がれることに飽きた者が、独り戯れたように。ひっそりと。(tkuszono)
  • 苦しませるつもりじゃなかった。ただ想いを伝えたかった。だから気に病まないで。あなたの笑顔が好きよ。言って、私は切なげに微笑みかける。…そんなの嘘よ、愚かなあなた。私の想いを受け止められず苦しめばいい。苦しんでいるあなたが好きなのだから。(hakorua)

023:憎悪

  • 何云ってるのよ、と彼女は私に微笑みかける。その優しげな口元に、途端に安堵が滲み出てきた。大丈夫、彼女はまだ私の親友でいてくれる。そう確信して笑顔を返した私の目に映ったのは、氷よりも冷ややかな視線だった。(yellowsumakichi)
  • まだ正気でいられるのかと、彼は蔑むように言った。私を拘束していた鎖は血に錆び、それをはずす彼の手を汚した。ベッドの上、私は接吻しろと強要する彼を無表情に見つめ、身を寄せる。彼は「愛している」と呟き、私の唇を塞いだ。(hakorua)
  • 苦杯を舐める。ほんの一分差で、変わった継承位。同じ腹から生まれ、同じ血をもちながら、なれど臣下として跪けと。そんなもので。そんなもので、全てが決まってたまるものか!杯を床に叩きつける。血のように流れる葡萄酒。破片を踏みにじるその目に浮かぶのは……。(tkuszono)

024:病魔

  • 息をするのも苦しい。心臓が痛い。胸を蝕んでいく…これは…これが…「恋の病いいいい! 好きだあああ!」「しつこいわああああ!」(mmsakura)
  • 病魔におかされながらも筆を持ち続けた画家は、終に一枚の絵を完成した。命を削り描かれた絵は、鬼気迫る迫力で人々を圧倒する。親友の音楽家は、彼に敬意を表し、己が一曲を彼に捧げた。「ある男の肖像」と題された曲は、人々に画家の壮絶な人生を思い起こさせる。(tkuszono)

025:愛憎

  • 可憐な素振りであどけなく笑う。棘を持たず、毒もない薄桃色の小さな花は、淡い香りに儚さをちらつかせて、易々と虫を引き入れる。なんと憎らしく、愛おしいのだろうか、私の恋う人は。(hakorua)
  • 名ばかりの妻。大公妃と女は呼ばれる。王弟たる夫の愛も憎しみも、全て王へ向かうもの。女は画策する。日に一滴、毒を。心蝕む毒を、夫の心へ垂らしていく。愛よりも憎しみをいや増す毒は、顧みられぬ女の復讐。やがて謀反の狼煙が上がる。王国全土を巻き込む戦の。(tkuszono)

026:薬物

  • 「で、何がどうなってこんなことになったんだ?」手のひらの上の小さな彼女に尋ねる。「栄養ドリンクとー風邪薬とー他何か色々混ぜて飲んだら縮んじゃったのー」だから常々薬はちゃんぽんで飲むなと……。えへらっと笑う彼女を眺め、俺はどうしたものかと頭を抱えた。(ricka_kus)
  • 「大王ミトリダテスの滑稽さだな」処刑人は嘲笑った。苦しませぬよう毒酒を与えたのだが、罪人となった王の体は毒物に慣れ、僅かな毒では死に至らなかった。「首を刎ねよ」王はかつての側近だった男に権高に命じた。(hakorua)

027:墓標

  • 無造作に散らばる死体。地平の果てまでそれは続く。この中から見つけ出すのは到底不可能だと彼女は知っていたから。きゅっと口を引き結び、震えを耐える少年に、彼女は肩を竦めることさえ躊躇われた。ああ、だから。「あんたがあれの標におなり」(ihuraruhi)
  • 貴方を思って何回泣いただろうか。貴方の墓の前に何回立っただろうか。けれど決して墓の前では涙を流さないと決めている。土の肥しになんてさせるものか。だってここに眠っていない貴方に涙は届かないのだから。(mizmaki)
  • かけられた小さな花輪。かつてその肩に止まった様に、白い鳥が一羽、翼を休めている。「あっけなくいなくなりやがって」荒野を背に立つそれへ、馬鹿野郎と呟く。未来はこれからだと、笑っていたくせに。吹く風が花輪を揺らしていく。墓標にかけられた、小さな花輪を。(tkuszono)

028:血痕

  • 命の証拠?死へ向かう印?いいえ、愛情の証し。(sea_na)
  • 拾い上げた破片が、指を傷つける。ぷくりと膨れ上がった血が落ちて、小さな染みを作った。同じ赤。同じ血。なれど、臣下へ下れと命じられたあの弟は、どうしているのか。心情を思い、ため息がこぼれる。……愛しいだけでは、世は巡らぬのだ。王は時に、人ではあれぬ。(tkuszono)

029:廃墟

  • 顧みられぬ空虚の中に、去った人々の痕跡の残る。(ricka_kus)
  • ぼろぼろになった柱に手を置くとそこから過去の記憶が流れてくるみたい。ここでたくさんの人が生まれ死んでいく。歓喜に満ちた表情、すすり泣く声、規則的になる電子音。人々の美しくも儚くもあるその時をこの建物は刻んでいる。ああ、なんて愛おしいんだろうか!(mizmaki)

030:崩壊

  • 悲鳴と銃声が窓の外から響き、娘は震える体を抑えてクロゼットに逃げ込んだ。荒々しい足音、扉が順繰りに蹴破られる衝撃が空気を介して耳に届く。敬虔な信者たる娘はお助けを、と繰り返す。両手を組み目を閉じた。神の従順な僕たる娘は、数秒後に世の真実を知るだろう。(susu_kino)
  • 「お前の死神は、私でなくてはならぬ。私の死神が、お前であるように」その胸に剣を埋める。叛旗を翻す者を、王は容赦しておけぬ。断罪の剣。仮令それが、己が心を引き裂くものであっても。血に塗れた手で、見開かれたままの瞼を閉じる。愛していたと弟へ囁きながら。(tkuszono)

031:悪夢

  • ありえない。クピドのやつ、なんでよりにもよってあたしのキライな男に恋の矢を射すのよ!「俺は君を愛しているんだ華子!」「冗談じゃないわよ! だいたいあんた男好きでしょーがっ」あんたが女を好きになったら世も終わりよ間違いなく!(saezimasin)
  • 「嫌な夢を見た」げんなりとした顔で彼女が言った。どんな夢かと僕が訊くと、彼女は心底うんざりといった様子で答えた。「アンタの彼女になった夢」(hakorua)
  • 泣き声を上げる、小さな寝台で。どうしたの兄上、と弟の手が髪に触れる。同じ小さな手。優しい手。夢の中で叛旗を翻すその手を、彼は切り刻むのだ。それは夢。ただの悪夢。現実になどなるはずのない、ただの夢魔の悪戯。現実になどしてはならぬ、悲しい悪夢。(tkuszono)

032:眩暈

  • 見事な二日酔いである。だが、今日は忙しい日だ。足元がぐらぐらするのは気のせいだと言い聞かせている。(ricka_kus)
  • 「僕はなんて罪作りに美しいんだ……」鏡を見ながら呟く彰さんにくらっ。美しいです。確かにお美しいですけれども!これじゃあほとんどナルキッソスだわ!控え目で物静かな純日本人の彰さんはどこへ……!クピドのやつ、また見当違いなところに恋の矢をッ!!!(saezimasin)
  • 彼女の様子がおかしい。「世界が回ってる」その顔は炭酸の抜けたジュースみたいで、僕が笑ったら風船のように頬を膨らませた。「空気を抜いてやる」指で突く。「入ってるのはこっち」「え?」「だから、ここに赤ちゃん。眩暈はそのせいみたい」嬉しさに眩暈がした。(lemonpop_rii)
  • 少し、硬いな…。目を瞑り、ベッドの感触を片手で確かめた。頬に触れる彼の手の冷たさと吐息の熱さがくすぐったい。ふと眼を開けると、彼の切羽詰まった眼差しとぶつかり、くらりとした。もう片方の手を伸ばして彼の髪に触れ、また眼を瞑り、キスを誘った。(hakorua)

033:螺旋

  • 久しぶりにトンボを見つけた。ついつい指を回してしまった。(ricka_kus)
  • 「夜の虹を見たのね」娘は横たわる男に尋ねた。しかし月光を映す白く淡い虹は消え、褥を温めていた男の息もまた既に消えていた。娘は血塗れた簪を男の首から抜き取った。血飛沫を浴び、娘の肢体が蛇体に変じていく。神稲降り立ち、赤に塗れた白い鱗がとぐろを巻いていた。(hakorua)

034:禁忌

  • 「人を救うことは我らが則から外れている。兄者」「僕も人だ。君もそうだ。僕らはただ古の昔に力を受け、無様に生き永らえているにすぎない。人が人を救って何が悪い? 力があるのに、それを愛する人たちを救うために使うことの、一体何が悪いっていうんだ!?」(attometer)
  • 「お前の世界の科学と何ら変わりはない」魔術師は物憂げに言った。弟子入り志願の娘は真摯に耳を傾けている。「魔術も科学も、人が侵してはならぬ領域がある。好奇心はその身に破滅を呼ぶこともある」(hakorua)
  • 昔、双子の王子がいた。仲むつまじき兄弟。彼らは長じて後別たれ、王と臣下となった。翻される叛旗。王はこれを迎えうち、自ら弟を手にかけた。王は抹消する、禁忌として全ての記録から弟を。残したのは手元に一枚、幼き肖像のみ。…百年の後。もはや王の心を、知る者はない。(tkuszono)

035:喪失

  • 「わ、おいしそう!」「でしょー。座って座ってー。今日は奮発しちゃったんだよー♪」楽しげに席に着く一人が声を上げる。「あれ? これ、一人分多いよ? 作りすぎじゃない?」「あ…そっか」忘れていた。彼はもういないのだ。その瞬間、私は喪失を思い知る。(ricka_kus)
  • 明け方、不意に目が覚めた。ほんの数時間前まで横にあった温もりは消え、私一人だけが横たわっている。彼がいた形跡は確かにあるというのに、今はもういなくて。私は再び目を閉じて、独占欲を押さえ込むように布団を抱きしめた。(hakorua)
  • それは世界の消滅。その事による悲しみは時が薄めてくれるが、消えてしまったと言う事実と悲しみは決して消える事は無い……。(seruvo)

036:鳥籠

  • 「自由に飛びたいよね」 外に向かって鳴く白い小鳥に屋敷から出ることを禁じられている自分を重ねた少女。そっと籠の入り口を開くと、大空へ飛んで行く小鳥を眩しそうに見送った。(sea_na)
  • 「ごらん、あの人々を。王宮という鳥籠で、少しでも良い地位をと争う、哀れな鳥達だ。やがてお前は、あれらを御さねばならぬ」父王は囁く。その苦痛はいかほどか…。幼き王子は、澄んだ目に不安を湛え、きゅっと唇を噛む。彼もまた鳥籠の鳥。王子の身分からは、逃れられぬ。(tkuszono)
  • 「マリーアっ♪」七海は嬉しそうに鳥籠のカナリアに呼びかけると、籠からマリアを連れ出した。マリアは七海の右肩にちょこんととまり、少しの間歌った後のんびりと羽繕いを始めた。(seruvo)

037:傀儡

  • 「ご決断を」期待の目が突き刺さる。周囲を見渡せば誰もが同じ顔をしていた。苦い思いを堪えて宰相の居場所を尋ねれば、どこかで失望の溜息がもれる。「王の判断が必要なのです」耳を塞ぐように再び宰相の居場所を尋ねる。 彼ならこういってくれる。ただ、お任せをと。(susu_kino)
  • 甘言を弄す。年端もいかぬ王の子に。己が頭で考える力を奪い、都合の良い傀儡に仕立て上げる。意志など必要ない。ただ従順であればそれで。佞臣たちはほくそ笑む。この国は我らのものぞ。かくて王国は蝕まれ、滅びの道を歩みゆく。彼らのもたらす腐敗によって。(tkuszono)

038:亡骸

  • 冷たかった。ぐにゃりとしていた。同じ髪、同じ顔、同じ体、だけど意思がない。ただ生きていないというだけで、どうしてこんなにも違って見えるのだろう?(ricka_kus)
  • 力尽き、がっくりと膝を折った女はその瞬間、砂となって崩れ落ちた。「……やられたな。 俺達が倒したのは、どうやら傀儡(くぐつ)だったようだな」「……その通りよ」そう言って姿を現した女は、やっとの思いで倒した傀儡と同じ姿だった。(seruvo)

039:殺意

  • 毎夜、恍惚と官能に身を委ねる彼女は、しかしこの腕の中には留まらない。したたかで美しい薔薇のかんばせが、気紛れに微笑む。毎朝、胸中をひしめかせるのは狂おしい恋慕、そして甘美な殺意。「いっそ、君を・・・」(hakorua)
  • 目の前で包丁が振り上げられた。物言わぬ姿にただならぬものを感じて、じわりと背中が汗ばむ。息を止めて見つめていると、そのまま一気に刃が落とされた。……これからはあまり彼女を怒らせないようにしよう。彼女が魚を捌いている姿を見ていてそう思った。(lemonpop_rii)
  • 殺す気など無かったのだ。最初から殺意など無かった。何を間違ったのか。白々とした昼光に、冗談のような光景が照らされている。床を汚す多量の赤。マネキンのように投げ出された身体と、その側に転がった刃。何も見たくない。男は両手で顔を覆う。血塗れの両手で。(tkuszono)

040:凶刃

  • 蒼白い光が弧を描き、やがて紅の飛沫を上げて振り落とされる。人を、魑魅を、易々と薙ぎ倒すそれは、大蛇の身から生じた魔性の剣。それを振るうは英雄。人にあらざる者の手にこそ相応しい。(hakorua)
  • 『その手に取れ』刃は囁く。『その手に取れ。憎しみを今すぐに晴らしてやろう』話し合う二人の側で、血を求める刃は無音の囁きを送り続ける。彼らが冷静さを失っていく様を、にたにたと冷たい光で嗤いながら。やがて激昂のままに、一方の手が彼へ伸びた。(tkuszono)

041:楼上(ろうじょう)

  • 先王は初め愚王と呼ばれ、なれどその治世の末には賢王と讃えられた。かの高楼はその象徴。登り、楼上から広く国土を見渡せばわかる、先王の見ていたものが何であったかが。立ち上る炊飯の煙。ここに民の暮らしがある。(ricka_kus)

042:灯台

  • 灯台もと「暮らし」、袖振りあうのも「多少」の縁、「家畜」の勢い、その他諸々。国語のテストの答え合わせを彼と一緒にしていたら、大爆笑されました。彼は「天然お笑い芸人が目の前に」と嬉しそうに言うのだけど、えっと、誰が?(hakorua)
  • 少年が父の無事を祈り岬に点した灯は、いつしか帰り来る船を導く灯台となった。波間に動かぬ灯を見つけ、船乗り達は安堵する。帰るべき港へ無事辿り着いたと。「行きかう船がなくならん限り、ここに住んでるだろうさ」少年の子孫は、そう笑い、今夜も導く灯を点す。(tkuszono)

043:砂漠

  • 「あっという間だからね、25を過ぎたら」「お肌の曲がり角、曲がっちゃうと怖いわよー」「気をつけないとすぐパリッパリに乾燥して、大変なことになるんだから」そう言って私の姉は、砂漠化進行中のお肌にせっせと化粧水をやっている。(ricka_kus)

044:階段

  • 休み時間。階段を下りる私と上がってくる彼。すれ違った後も背中で彼を追いかける。勇気を出して振り向くと……目が合った。(hanananuka)
  • 古い校舎の西側にある階段。そこを使う生徒は少ない。が、時々体育館の裏と同じように利用される、大抵は女の子が男の子を呼び出して、意を決して告白するのだ。「好きです、つきあってくださいっ!」 (hakorua)
  • 名前を呼んで、花束が振られる。迎えに来たよと、朗らかな笑顔。彼女は飛び込む、階段を駆け下り、愛しい腕へ。それは少女達の間で語られる、憧れの物語。ある晴れた午後のお伽話に、少女は胸を膨らませ、階段の上から、今日も外を覗いている。(tkuszono)

045:高楼

  • 戦乱の世を平定し王となった男は、その治世の初に高楼を建てさせた。人は噂する「高楼は王の愚の象徴。世はすぐに乱世へ返るだろう」と。……過ぎて三十年。人は噂する「かの高楼は賢王の象徴である」と。今日も王は登る、かの高楼へ。国を治め民を愛す、その為に。(ricka_kus)

046:浮島

  • ひょっ●りひょ●たん島は、今頃どこにいるのだろう?(ricka_kus)
  • 遥か遠い昔、この場に固定されたクラゲナスタダヨエルクニも、いつかは浪にさらわれ、沈んでしまうのだろうか。砂浜にうちあげられ干からびている半透明の死骸は、小さな島国の行く末を見るようで、哀れで、滑稽だった。(hakorua)

047:都市

  • 「すげー!ほんとすげー!」「お前、田舎モノ丸出しだな」(hal_sigure)
  • 工業・交易、流入する民。富を蓄えた商人達は、力をつけて武装する。都市はひとつの生き物として、もはや王をも凌ぐ勢い。やがて彼らの台頭が、新たな時代の幕を開ける。民を主とする時代の。(tkuszono)

048:遺跡

  • 私には聞こえる。この朽ちた壁の向こうで響く忌まわしい足音が。何の音かは分からない。大きさからすると無数の鼠か。その音は徐々に近づいてきている。だが、私には分からない。何故、君にはこの音が聞こえないのか。(koucha_doufu)
  • 「わくわくしないか、砂の下に眠ってるものを考えるとさ」目を輝かせて、彼は言う。彼が夢中な遺跡探しに、最近ちょっと嫉妬気味だ。ライバルが女の子なら、楽勝だったのに!「だからって負けてらんない!」私は考古学の本に鼻先をつっこむ。絶対追いつくんだから!(tkuszono)

049:天空

  • 一碧の空を仰ぎ見て、少女はまなじりに溜めていた涙を拭った。広やかで美しい空。そこに天国はなく、神もいない。少女の瞳に空虚な青が映り、やがて消えた。少女の目は二度と開かれず、天国を夢見ることもない。(hakorua)
  • 人の頚木を離れ、彼は旅立った。人は死して風に還り、天空へと舞い上がる。そして世界を抱きしめるのだ。愛しき者ごと、抱きしめるのだ。いつか再び、人に生まれるまで、穏やかな、風になって。「いつか遠い未来、人の世で再びまみえようぞ」王は語りかける、掌の肖像画へ。(tkuszono)

050:地下

  • 異様なまでの反響。何処から来て何処に抜けるのか判らない風の生臭さに慣れてしまった自分に涙が出る。風の流れに出口を望みながら、けれど心は今にも崩れそうになる。だって、大地を踏みしめる足音は、まさに頭上から聞こえてくるんだもの……。(yellowsumakichi)
  • 「サド侯爵は機械仕掛けのモノでする嗜好があって、そういうのが隠された部屋があったんですって」「それ、どんなんだ?」「さあ?」「手近な所に探りに行くか。オトナ向けの玩具の店へ」「こンのエロ男がぁっ!」「どっちがだよ!」(hakorua)
  • 「この星は雪と氷ばかりだろう?」と、彼は言った。「地上はとにかく住み辛い。だから僕らは地下へ潜ったんだ」初めてこの地へ立つ旅人は、地下に住まう人々の熱気に圧倒される。猥雑でパワフルな彼らの町は、未だ地下を掘り進み、広がり続けているのだ。(tkuszono)

051:魔法

  • いつもと同じインスタント味噌汁。なのに彼女が作ったものは美味しかった。(ricka_kus)
  • 娘は諦めずに魔術師を訪ね、弟子にしてくれるまで通い続けるんだからと宣言した。その上、強気で舌足らずな娘は、「まじゅちゅし」に文句をつけた。「勿体ぶらないで魔法使いでいいじゃないですか!」魔術師は嘆息した。(hakorua)

052:機械

  • ボンネットに手を添えると、まるで体温のような温かさだった。遠い歓声はウィナーのためにさざめいており、この場の静寂を際立たせている。「寂しい最後にして、ごめんな」もう一度ボンネットを撫でながら、その奥で冷たくなっていくエンジンの鼓動を思い描いた。(yellowsumakichi)
  • 冷静で正確過ぎる彼は、皆から機械と呼ばれてる。でも知ってるの、彼実は子猫が苦手なの。この前こっそり後ろから近づいて、鳴きまねしたら、飛び上がって驚いてた。もったいないから誰にも言わないけど、ちょっと可愛いじゃない? わたしだけが知ってる、彼の秘密♪(tkuszono)

053:人形

  • 「機械仕掛けの人形に恋をするのは、詩人ならロマンチックな話にもなるけど、買いそろえた美少女フィギュアを眺めてニヤついてるリーマンなんてキモいだけ!」と厳しく言い放つ妹は、俺をネタに、今夜も奇妙なラノベを書いている。(hakorua)
  • 通販で買いたい物があるんだと、可愛くおねだりされて、ついつい財布を開いてしまった。届いた商品を見て俺は盛大に噴いた。何だこりゃ、有機栽培製呪いの藁人形セット!?何考えてこんな物頼んだんだ!理由を問いただすべく、俺は五歳の娘の部屋に駆け込んだ。(tkuszono)

054:主従

  • 彼は私の前に膝をついた。「何なりとご命令を、ご主人様」(hal_sigure)
  • 今日から仕える者だと引き合わされた男に、どこかで会った気がした。「今度はお前が主人なんだな」聞こえた言葉は空耳か。聞き返す彼に、なんでもございませんと従者は言う。「身命を賭して、お仕えさせていただきます、我が主よ」かくて彼らは再び巡り合った、遠い未来に。(tkuszono)
  • 前菜からデザート、最後に飲んだグラッパまで俺には上等すぎるディナーだった。俺の飼い主は「さぁ、次はあなたの番よ?」そう言って微笑む。「私を満足させて?」彼女の猫なで声は蠱惑的すぎた。抗えず要望に応え、挙句惨めに溺れる。飼い犬の調教が彼女の娯楽だ。…上等な。(hakorua)

055:魔物

  • 「恋は魔物」ふふ、と彼女は笑った。「恋は魔物と昔から申します」そう、もう一度。「魔物を操る魔術師か、魔物と知りつつ飛び込む勇者か、さて、あなたはどちらでいらしゃいまして?」白い指がランプの灯を絞る。肩紐を落とした彼女の黒い瞳が、私の顔に近づいた。(ricka_kus)
  • 男は異形の姿に――頭は獅子、曲刀と化した両腕、そして蠍の尾を持つ魔物に――自らを変えた。 それは力を渇望する余り、ヒトである事をやめた者の姿だった。 魔物はニイと剣呑な笑みを浮かべると、一直線にこちら目掛けて走り出した!(seruvo)
  • もはや逃げられない。「動けない」と彼が呻くように言い、私もまた同じような状態で倒れこんでいる。徐々に意識も薄れ、瞼が閉じていく。真冬の炬燵から抜け出せる者はいない。(hakorua)

056:境界

  • ここを越えたら多分、彼と私の関係は終わりだ。(hal_sigure)
  • 空と海とはいつだってすごく近く見えるのに、彼らは決して交わらない。そうやっていつも互いを見つめ合いながら、縮まることも開くこともない距離を楽しんでさえいる。その距離こそが彼らだけの秘密の境界。僕と君との指先のように。(border_sky)
  • 間断なく閃く銃火。肉を削ぐ弾雨が押し寄せる群れを挽肉に変える。出すぎた男が一人ばかり弾切れと共に餌食になった。「踏ん張れ!死んでも守り切れ!」怒号は示す、抜けられれば町一つ程度、一日ともたず容易く消えると。ここは人と魔の境界線。永遠の戦場である。(tkuszono)

057:奇矯

  • 夜、ベランダに現れた彼。彼の額に銃をつきつけ「動くな」と脅す。「君に撃たれるなら本望」と嘯いた彼に、私は笑顔で応えて引き金を引いた。「冷たいなぁ」彼は苦笑して濡れた額を拭う。水鉄砲の中身は氷水だもの。「頭冷えた?」(hakorua)
  • いとこは机の引き出しに乗る癖があって。時々そこに乗っては、まだダメかとか、妙な事呟いてて。ある日姿が見えないと思ったら、いきなりどっかの漫画で見たような青い猫型ロボットを連れてきた。……何この不条理。あいつただの変人じゃなかったの?頭抱えちゃうよ。(tkuszono)

058:時間

  • 姉は今日、愛する人の元へ嫁ぐ。あたしと同じ顔。同じ年。あたしたちは生まれる前からおんなじ時間を過ごしてきたけれど、成長と共に少しづつ違うものになっていった。それも今日で完全に別々となる。ちょっと寂しいけれど。おめでとう、お姉ちゃん。(lemonpop_rii)
  • 扉奥、交替の時間だと闇へ投げれば、応と声が返って来た。銃を担ぐ男が一人、無精ひげの頬を擦りつつ夜気の中へ踏み出してくる。たまにはゆっくり眠りたいね。兵役を無事に勤め上げられたらな。軽く片手を打ち合わせ、砦を守る兵たちは、各々持ち場へ散っていく。(tkuszono)

059:荒廃

  • 「何があった」呆然と呟いた。「俺がいない間に、何があった」たった五年。舞い戻った故郷は、打ち捨てられ、焼け焦げた壁と瓦礫と、僅かに生き残った荒んだ目の住人が物陰に座る場所となっていた。何が…と、語られる言葉に、心が荒んでいく。(ricka_kus)

060:呪術

  • 弟子入り志願をしてきた娘に、魔術師は簡単な入門試験を行った。魔術に関わる根本的な、そして肝要な単語を違わずに一息で言いきれるかと、問う。娘は頷き、声を発する。「じゅ、じゅじゅちゅ」「入門は許可できんな」(hakorua)
  • なんで奴らは現れたんだ?食い飽きた豆のスープをかき回し、隣に座る男が言う。俺の親父がガキの時分は、奴らの影すら無かったってよ。さあな、問われた男は答える。どっかの馬鹿が呪術でも失敗したんじゃねぇのかね。真実は全て闇の中だ。今はもう知りようも無い。(tkuszono)

061:時計

  • 一瞬を刻むごとに世界が変わる。今この瞬間にはもう戻れない。それを教えてくれる残忍な案内人。(koucha_doufu)
  • 秒針、短針、長針が刻々と廻っていくのを睨む。クロノスは未だ死なずにいるのかと恨みがましく思っても叶わないこともまた知っていた。私の公開処刑が先か、と溜息を吐いた。(saezimasin)
  • 初めはあなたの吐く嘘が嬉しかった。私と一緒にいる為にあの人へ告げられるものだったから。でも今は、苦しい。あなたに都合よく、今度は私に向けられた嘘が。お願い。そんなに時計ばかり見ないで。(hanananuka)
  • いい時計だろう、と新兵は、しきりと嬉しげに見せびらかす。俺の成人祝いだって、親父達からの贈り物さ。貧しい農夫の出だという。それが精一杯の贈り物か。磨き上げられた古時計は、新兵の腕にはめられて、誇らしく時を刻んでいる。(tkuszono)

062:喧嘩

  • 窓の外で、2匹の猫が盛大に鳴き喚いている。春だなぁ……。(ricka_kus)
  • 「君の笑顔は私の心を癒してくれる、特別な魔法だ」気障な台詞を臆面もなく言う王子に、幼馴染みの魔女は顔を真っ赤にして言い返す。「そういうことさらっと言わないでくださいってば!」「怒った顔も可愛いが」「だからもうっ!」(hakorua)

063:継承

  • 強引に小汚いロッカーの前に立たせた彼は、小さな鍵を突きつけてきた。「これが我々の全てが詰まったロッカーだ」神妙な声を掻き消す軋み音を響かせながら開いたロッカーの中身は、原稿用紙やペンやトーンの山。「頑張れ、新部長。今度は必ず部室をゲットしてくれよ」(yellowsumakichi)
  • 「血は争えないものねぇ」名優の父を持ったのが幸いだった頃もあった。その父が夭折し、今は七光をかき消すことに苦心している。「血は争えない」その一言を、素直に褒め言葉として受け止められるよう、己を白紙に戻して。(hakorua)
  • 秘され続けた継承者。偉大な領主の、その座を継ぐ者がいかな人物であるか。開かれた幕の向こう、一様に好奇の目が注がれる。どよめきは、落胆か、別の驚き故か。か細き少女は昂然と頭を上げ、彼らを見下ろす。後に女怪と恐れられる女領主のこれが初の目見えであった。(tkuszono)

064:仮初(かりそめ)

  • 紅に濡れ艶美たる唇が、つんと尖って線香に灯る火をふぅ、と吹く。途端、籬越しでは人形の如き女の面は、さても見事に血の通った物へと変わった。「これより香の全てが灰に変わるまで、わっちと御大は夫婦でありんす」(mcircus)
  • 仮初に選ばれた巫女が、神の心を動かした。絶大なる守護と破壊の力は、辺境の弱小国を大陸一の強大な国へ押し上げる。女王となった神の巫女は、恐ろしい魔女となり、王国を支配した。その暗黒の時代は、残酷な神が、再び戯れに勇者へ力を貸すまで、続いたのである。(tkuszono)

065:彼方

  • もっと高くへ飛べる翼を! そう願った鳥は星々に向けて羽搏いたきり還らなかった。彼が夜空に凍りついたか、それとも墜ちて燃え尽きたのか、僕にはわからない。(ist_kobayashi)
  • 開かれた顎に死を覚悟する。彼方から飛び来た弾丸が、寸前、その顎を砕いた。降りかかる生暖かな飛沫。「生き残りたけりゃ立ちやがれ!」古参の叱咤が耳朶を打つ。戦わぬなら、待つのは死のみ。新兵は立ち上がり、震えを押さえ武器を取る。(tkuszono)

066:失恋

  • その笑顔も、右手も、声も、みんな彼女のものになったんだ。突然、全部終わっちゃった。今さら好きなんて言っても、困らせるだけ?(hanananuka)
  • ヤツはにべもなく彼女振った。そして僕は彼女の弱気につけこもうとしている。彼女にとって「悪者」は、果たしてヤツと僕、どちらだろう?(hakorua)
  • 朝、屋根で囀ってる雀みたいに、私もベランダによりかかって泣いていた。「あんまり目をこするなよ」って、隣のベランダから幼馴染みが氷嚢を差し出した。「男はあいつだけじゃない。お前に合う好い男は存外近くにいるんだぞ?」(hakorua)
  • 「受け取れない、こればかりは」青年は袋を押しやった。布越しに崩れる重い感触。音立てる中身は金貨だ。受け取れば女にはもう会えず、失恋は確定になる。仮令一生報われぬ片恋だとしても、信じ想い続けたいのだ。いつかあの微笑みを、手に入れられるかもしれないと。(tkuszono)

067:予兆

  • しめった風が吹き出した。向こうのビルの上に、真っ黒い雲がかかっていた。雷の音。これは、来るな。あれに遭えば傘なんて役に立たない。僕は慌てて建物の方へ駆け出した。ざっと来る前に、間に合うだろうか……。(ricka_kus)
  • 少女は口の端をきゅっと結んで、苦しげに顔をしかめた。黒い瞳に薄い水の膜が張りだしている。青年は動ずることなく少女を抱き寄せ、やがて流れ落ちるであろうそれを受け止めるべく、胸を貸した。(hakorua)

068:失踪

  • 「さがさないで」と書かれたメモを見、僕は苦笑する。捜すまでもないから、言われた通り、さがさない。きっと君はいつものところにいて、僕を待ってる。だからちょっとだけ時間をおいて、それから迎えに行こう。「さがしたよ」(hakorua)
  • 失踪した新兵は、今頃母親のスカートに隠れて震えてるんだろう。昼噂した兵たちは、顔色を亡くし立ち尽くす。腕と臓腑の切れ端と、ひしゃげ血塗れで転がる時計。ありゃ新兵の持ち物だ。震える声が搾り出す。爪痕の残る石壁は、砦に奴が潜むぞと、冷たく彼らを嘲笑う。(tkuszono)

069:咎人(とがびと)

  • 失墜していく祈りに為す術もなかった。私が信じたものは何だったのだろうとぼんやりと思う。最期に言いたいことは、と処刑台の黒衣が訊いた。裏切ったひとびとの顔が浮かんでは消え、寂しいのだとは言えなかった。(saezimasin)
  • 「愛してる」男の囁きは惨い罰のようだった。たった一夜すら男を独占できず、女は虚しさを抱え、男の熱い腕の中で激しく短い時間を過ごす。「愛してる」繰り返し囁かれる甘い罰に酔い痴れ、絶望しながら。(hakorua)
  • 「志願兵かね?」問えば頷く。「正義に燃えて、て感じじゃねぇな。ここへ志願する奴なんざ、大抵が咎人だ」逃げてきたのか死にたがりか。「使えない奴はいらないぜ」突き放しかけた古参兵は、寸前言葉を飲み込んだ。一つ残った男の目には、青白い火が燃えている。(tkuszono)

070:刹那

  • 寝台に腰かけ、少女は長い黒髪を梳く。窓から射しこむ月光、幾つかの蝋燭の灯り。それらの淡い光に目をやりながら、少女はひたすらに髪を梳く。やがて扉が開き待ち侘びていた人が姿を現した。少女の瞳が悩ましげに揺れる、刹那の時。(hakorua)
  • 残り十秒のカウントダウン。逃げ切れる!思った刹那、ヤツのシュートがゴールに入った。同時に響く試合終了の笛。茫然とする俺の脇を通り過ぎながら「詰めが甘いんだよ、バーカ」ヤツが笑った。振り返り、俺はヤツを睨みつける。チクショウ!次はぜってー負けねえ!(tkuszono)

071:復讐

  • 「仇討の代行にはそれなりの報酬をいただく。当然だ」彼は血塗られた手で金貨を握る。彼の矜持であるらしい。「所詮は殺人だ」正義という美酒に悪酔いせぬよう、彼は金と引き替えに罪業を被り続けている。(hakorua)
  • 男の怯えた表情を見た時、青年の脳裏にある思いがよぎる。 ――違う、俺がやりたかったのは、こんな事じゃない。本当にやりたかった事は―― 自分の本心を悟った青年は、銃を向けたまま電話を取り出すとある番号をダイヤルした。 「……もしもし――」(seruvo)
  • 「武器を取れ!」男は叫ぶ、一層に隻眼を燃やして。「狩り出すんだ!仲間の仇を!」充満した恐怖を、怒りに塗り変えていく。復讐を合言葉に、砦は正しく動き出す。慌しく行き交う軍靴。屈することの無いこの強靭さこそが、戦いに身を置く彼らの真骨なのだ。(tkuszono)

072:胎動

  • どくん、どくんと音がする。生きてるって、こういうことか。動かない指先を思いながら、瞼の外の暗い世界を眺めやる。何を失ってもいい。けれどいつか見たあの夢だけは奪わないで。「準備はいいか?」さあ、このトンネルを抜ければ、僕はまた生まれ変われる。(border_sky)
  • 生と死が一つになり、そこにたゆたっている。浄黒に包まれて育まれていく玉はやがて螺旋を描き、光音の渦中に生まれ落ちることだろう。そして玉を砕きながら活き続けていく。やがてまた浄黒のうろに戻り、一つの玉となる日まで。(hakorua)
  • 「動いてる」ざわめく表皮に掌を当て、彼はにっこりと笑った。「祝おう、もうすぐ生まれてくる子達を」歌うように黒の魔法使いは言祝ぐ。「因果の紡ぎ手達が、間もなく生まれてくる。祝おう…ねぇ」「嬉しい、ね、サーシャ」笑いながら彼は涙を流した。壊れたように。(tkuszono)

073:左眼(さがん)

  • 明日を夢見る君の片眸を抉りだしてやった。落ち窪んだ眼窩にぼくと同じ暗闇が蔓延ればいいと。美しく鬱くしく濁りはじめる、君の残りの眸の上に口づけて。ぼくはうっすらと微笑んだ。(saezimasin)
  • 「糞ッタレが!」誰かが毒づく。砦の奥の薄闇に、粘液質の巣を作り、奴は卵を生み付けていた。非常呼集のかかる中で、殻を破って孵化するそれへ、「ようこそ地獄へ」と弾を喰らわす。失った左目の空いた眼窩の奥では、あの日からずっと青い火が躍るように燃えている。(tkuszono)
  • 孤独な娘は神になりました。否応なしに。村の男衆に恭しく平伏されても娘には応える意力もありません。一年限りの神となった娘は、炉の中の炎を残された左眼で見つめています。抉り取られた右眼のように、やがてこの身も炎に熔かされ、鉄の一部となるまでただ、漫然と。(hakorua)

074:拒絶

  • 「なんでそんなに嫌がるんだよ! 俺のどこがだめなんだ! こんなに好きなのに! 直せるところは、直すから、言って……くれよう……うう……えぐえぐ……うわーん」「そういうところだあああ!」(mmsakura)
  • 「屋上は立ち入り禁止だよ」と声をかけてきた彼に彼女は背を向けたまま無視を決め込む。一方的に当たり散らして、喚いて泣いて。彼女は肩を震わせている。彼女を後ろから抱きしめて、その白いうなじにキスをする。「こっち向いて」「…イヤ」(hakorua)
  • 悲運の騎士の剣を抜き放ち、民衆の上に王は言葉を降らせた。「我はここに宣言する。以後、この国は因果の魔女を拒絶する。黒白の理を拒絶し、ただ人の知恵と技術によってのみ繁栄を求める!」繰り返される悲劇を断ち切らんと、王国は歩み始めた。(tkuszono)

075:迷路

  • 「右ーを向いても、ひっだりーを向いても♪」「壁!壁!壁!壁!」「せめて何か無いのかよ、目印になるものとかさぁ」「あ、さっき刻んどいた印だ」「だあああああ、また戻って来ちまった!!!」「出口はどこだーっっ」(ricka_kus)
  • 巨大迷路の中、あちこち駆けていたら彼に叱られた。「無闇に走るな、迷う」「だって迷路だし」「出る気はあるのか」「手を繋いでくれたら」「…暑い」「指でもいいよ?」彼は嘆息して私の指を握ってくれた。「行くぞ」手を繋ぐのが目的だったって言ったら怒るかな?(hakorua)

076:物語

  • 紐解くほどに、立ち上がる鮮やかな世界。語られる言葉に飲み込まれ、耽溺する。そこに在る人々の、怒り、喜び、苦しみ、悲しみ……。彼らの生の全てが、入り込んでくる。物語とは魂語りなのだ。私は語られる魂を深く深く呼吸する。(ricka_kus)
  • ――それは、過ぎ去りし時。それは、これから起きる出来事。それは、今を生きる人々の想い。――(seruvo)

077:雨音

  • つとつとと瞼の向こう側の世界が、何かにたたかれる音がする。縁側に出れば、足元をくすぐる小さなぬくもり。雨音はオトと孤独を喰らう。(kaoru220th)
  • こっちへ来てと、人気のない所に引っ張り込まれた。不意に訪れた雨と彼女。僕は傘を持ったまま立ち尽くしている。激しい雨が彼女の嗚咽をかき消し、僕の呟きをも消してしまった。僕は、雨に濡れ恋に破れた彼女にただ胸を貸している。(hakorua)
  • 銃弾の音は窓を叩く雨音に似ている。青く燃える炎の裏を、遠い記憶が過ぎっていく。小さな建物の並ぶ村で、恵みの雨に跳ねた影は、押し寄せる奴らの群れに瞬く間に呑み込まれたのだ。今もまた雨音が耳を打つ。雨と降らせる銃弾が立てる、血生臭い雨音が。(tkuszono)

078:足跡

  • 「犯人はお前だ!」「何を証拠に」「生乾きの上、あるいただろ」「……あ」(ricka_kus)
  • 砂浜に残る足跡を踏みしめる。もう波にさらわれて、よぉく目を凝らさねば、彼がここを走ったことを知る者でなければ、気づかない。自らの足跡を残そうなどと、これっぽちも考えないで駆けていったのだろう。振り返ることなく走ったのだろう。なぞるように踏みしめる。(mikotomikotan)

079:追憶

  • 彼は果たして、本当に私に魅入られたのだろうか? 或いは、古の人々が考え出した絢爛な紋様と蝋燭の灯火、傷んだインクと羊皮紙の質感に屈したのだろうか。――何れにせよ、私は唯、喰らうだけだが。(ist_kobayashi)
  • 河原に咲く藤袴を手折り、文を結んで送ったのはたったひと月前のこと。御簾の向こうで紙燭を灯し、藤紫の花色をともに愛でてくれたあなたが、もうこの世のどこにもいないなんて。(hakorua)
  • ぽろぽろと鳴るピアノの音。零れ落ちる優しい記憶。甘い菓子のにおいのする、やわらかな白い手は、時折こうしてピアノを奏でて。ぽろぽろとピアノが鳴る。小さなスピーカーの音。音がつれてくるのは、いつも、今は遠くある人のやさしい追憶。(tkuszono)
  • 彼が差し出したそれは、古びた懐中時計。「君にあげる。時々でいいからネジを巻いて」彼女に時計を手渡し、彼は静かに笑った。夕風に吹かれながら彼女は独りきりベランダに佇み、この空の下、もうどこにもいない彼の代わりにネジを巻く。あの日から、時は止まったままなのに。(hakorua)

080:運命

  • 「ベートーベンだろ?」「ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン、だよな?」(ricka_kus)
  • 夢を見ていた。私を包むように抱いて眠る、彼の夢。彼は少し悲しげに笑って、私に囁きかけていた。目覚め、不意に不安になった私は、彼の手をそっと握って呟いた。「ねぇ、どこにも行かないで。…置いていかないで」(hakorua)
  • ある者は「決められていて変えられぬ物」と答えた。別のある者は「自らの手で切り開いていく物」と答えた。 ……さて、あなたはなんと答える?(seruvo)

081:回廊

  • 「お気をつけあそばせ」薄暗い回廊で貴婦人は笑う。「柱の影に曲者が隠れているやもしれませぬ」男は笑い飛ばす、ならば退治てくれようと。「お気をつけあそばせ」貴婦人は妖艶に笑う。「ここに人目はございませぬもの」背に回した貴婦人の手に、鋭く小さな刃が光る。(ricka_kus)

082:細工

  • 「なんと見事であろうか」手にした香炉をとっくりと眺め、公主はほれぼれと呟いた。ため息をつきたくなるほどの、繊細な彫りであった。(ricka_kus)

083:舞姫

  • 俺の四肢でつくる檻の中、彼女は湿りを帯びた甘美な舞いを見せる。熱情に浮かされた、艶冶な舞いを。 (hakorua)
  • 指の一振り、向けた視線で、あらゆる事象を彼女は描く。人も物も神すらも、全てを魅了する舞を。神舞の舞い手が生み出すのは、五感を飲み込む異界である。(tkuszono)

084:占術

  • 「取り出だしたるこの筮竹、種も仕掛けもございません」「いや、手品じゃないんだから。さっさと占えよ、占い師」(ricka_kus)

085:姫君

  • 「お手をどうぞ」「え、うん」「喉が渇かれたかと。お飲み物をお持ちしました」「あ、ありがと」「そこをどけ。お通りになる」「えー……あの、ちょっとっ」 「なあ、長谷川のあれどう思う?」「罰ゲームでもやりすぎだろ。まるで……」「言うな、あれでも一応男だ、柚木は」(ricka_kus)

086:共鳴

  • ふと思いついて、音叉を一つ弾いてみる。周囲に並べられたいくつもの音叉が、一斉に鳴り出した。ほんの悪戯のつもりが、思わぬ大きな響きになった。(ricka_kus)
  • ごうっと風が鳴る。突風は少女の髪をぞんざいに撫ぜ、枯葉とともに去って行った。朝の日差しは厚い雲に遮られ、遠くで雷が轟いている。少女を残して一人旅立ってしまった彼を想い、朽葉色の庭先に立って空を仰ぐ。近づいてくる雷鳴に心を重ねるようにして。(hakorua)

087:泡沫(うたかた)

  • 「愛さなければよかった」(saezimasin)
  • 深夜の海辺、美しい金の髪の娘は皓々と照る月明かりの中、恍惚と恋慕に溺れている。人間の男に恋をした海神の娘は、海を捨て陸を選んで歩き出した。足の爪先に残った小さな鱗が白い砂を蹴り、娘に疼痛を与え続ける。来るべき日まで。(hakorua)
  • 「うたかた」 その言葉は儚いもののたとえに使われる。 ……だが、ちょっと待ってほしい。 消えてしまうその時までは確かにそこにあるのだし、消えてしまっても「あった」と言う事実は残るのだ。 すぐ消えてしまうからと言って、決してバカにしてはいけない……。(seruvo)
  • 愚かな、と姉魔女は言った。「魔女の定に逆らい泡沫の生き物を選ぶというのか」否、と妹魔女は首を振る。「逆らうのではありません。役目は確かに果たします。ただその後を好きにしたいのです、仮令灰となろうとも」愚かな、と姉魔女は繰り返す。恋する妹へ繰り返す。(tkuszono)

088:静寂

  • 我々の耳ではその音を聞き取ることはできない。ただ、静寂を感じるのみ。だがその超音波を聞き取ることのできる数少ない者は、冒涜的で狂ったように鳴り響くオーケストラの観客になれるだろう。(koucha_doufu)
  • 幻影の間の静寂に独り立ち、青銀の彼女は黒石を見上げる。耳奥にこだまするのは、愛しき騎士の声。魔女は呟く。「何者にも捕らえられず、心を与えず、ただ、世に因果を巡らせる。それが理の魔女の定め」ああ……けれど……。けれど今は、「その定が、憎い、です……」(tkuszono)
  • 「雪、止まないね」私は深々と降る雪を眺め、呟いた。彼はコートで包むように私の体を抱き寄せてくれてる。除夜の鐘が遠くに聞こえ、彼は耳を澄ませてる。私は温かい音を、近くに聞いてる。いつも優しい、彼の音。(hakorua)

089:右手

  • 生きていたのかと破顔した彼は、当然のように俺の手首を握り締めた。彼の残像のような指が肌に喰い込む。共に鉄塊に抉り取られた。爆風は全てをもぎ取っていくかと思われたが、こうして俺達は生き延びている。失ったはずの右手が、彼の手を握り締めた。(yellowsumakichi)
  • おもちゃの手錠で繋がれた、彼とベッド。彼女は悪戯っぽく笑いながら、彼の頬に口づけた。ベッドの上での主導権はいつも彼に握られているから、腹いせなのかもしれない。彼は少し戸惑った顔で「ずいぶんといい趣味だ」と苦笑した。(hakorua)
  • 滑らぬようにと火蜥蜴の皮を巻きつけた、柄の感触。戦場で馴れ親しんだ得物を思い出す。振り下ろされる敵の刃を受け止める際の、鈍い振動。己が手に馴染んだ剣の記憶は、未だ消えぬ。彼の右手はもう、無いというのに。(tkuszono)

090:相棒

  • 崖っぷちにぶら下がり、あわや俺様終わりか!?と思った瞬間救いの手が現れた。「おせえよ、馬鹿」「この方がありがたみあんだろ?」茶目っ気のつもりか奴はウィンクなんぞ寄越しやがる。「後で殴る憶えてろ」「へーへー」軽口を叩きあいながら、俺は相棒の腕に縋る。(ricka_kus)

091:一緒

  • 「ね、ずっと一緒よ?」そう云ったかと思いきや、彼女はひらりと身を翻した。俺の手を握り締めたまま、奈落の底かと思えるビルの谷間へと……。(yellowsumakichi)
  • 「ねぇ」頬を赤くして、彼女は彼の腕をつついた。促されて前を見てみると、人目も憚らずに濃厚なキスを交わしているカップルがいる。彼女は別の道を行こうよと彼の腕を引っ張った。「春だからなぁ」彼は彼女を強引に抱き寄せて、「俺達も、もう一回」そう言って口づけた。(hakorua)
  • 「ずっと一緒よ」甘い香の漂う閨の睦言で、戯れに結んだ百年華約。誰が想像しただろう、たかが一夜、行きずりに契った妓生の言葉が、真であったなどと。「ずっと一緒よ……」白くたおやかな手が、今宵も男の首に巻きつく。冷たく透ける、この世には無い女の手が。(tkuszono)

092:綺麗

  • 美しく。さらに美しく。そのためにたかる虫を殺し、末葉を切り、土を変え、過不足なく水を与える。造られた花園を保つ人の手は傷を負い、醜く汚れ、黒ずんでいく。そして花は色鮮やかに咲き誇る。(hakorua)
  • 綺麗でしょう、と床に透ける夜空を指し彼女は言った。「星の荒野よ。魔女と魔法使いが眠る地の幻」たおやかな指を騎士の指に絡め、銀の魔女は囁く。「全ての魔女は因果を背負い、そこへ赴くのよ」させぬ、と抱きしめる腕の中、魔女は吐息を漏らす。運命は避けられぬ。(tkuszono)

093:唯一

  • その恋を励まして、応援して、見守って、こんなに傍にいるのに、唯一の女友達だってあなたは私に言う。ありがとうなんて、そんな笑顔で言わないで。そのシャツにしがみついて、泣きそうになるから。(hanananuka)
  • 少女は、流行り歌を歌うために作られた人形。与えられたメロディーをなぞるだけの、歌人形。いつか自我を持った少女は、似た旋律しかない音の世界から見放されるかもしれない。その日が来るのを待っている。私一人だけでも。(hakorua)
  • 「あの男を殺しなさい」水晶のナイフを手に、姉魔女は青銀の魔女へ詰め寄った。「今すぐにあの男を殺し、結ばれた因果を解くのです!」はや炎を纏い始めた妹魔女は、ゆるゆると首を振る。「これが唯一の私の望み」晴れやかに笑い、彼女は燃え落ちる。一握の灰を残して。(tkuszono)

094:不死

  • 「ふはははは、無駄よ無駄無駄無駄ぁ! 切っても切っても同じだわ!」「金太郎飴かよ!」「そっちじゃねえっ!!」(ricka_kus)
  • 我が肉を喰うがいい。我らの脂で作られた蝋燭の火が永劫の闇を灯すように、我らが人魚の肉を喰らう者は呪われた不死を得るであろう。美しく若い肢体のまま永久の孤独を生きられるというのなら。さあ、美しい娘よ、我が肉を。(hakorua)

095:破片

  • きらきらと輝きながら落ちていくそれらを、私は呆然と眺めるしかなかった。ああ、粉々だ……。(ricka_kus)

096:伝説

  • 「えーとね、新歓の時に一升瓶かついで行ったことでしょ。あ、配送もったいなくて、冷蔵庫背負って帰ったってのもあったなー。ほら、小型だったからさ、配送もったいなくて。あと、部室の鍵亡くして、二階の窓から入ろうとしたとか。あとはー…」「先輩、いくつ伝説を持ってるですか!?」(ricka_kus)

097:束縛

  • 彼の手から、ホテルのカードキーがはらりと落ちた。ドアに背を押しつけられ、激しく口づけられる。互いに服を脱がせ合う。もどかしさに眉をしかめ、真剣な眼差しで見つめ合い、深いキスをねだる。今夜だけは、ずっと傍にいて。(hakorua)
  • 目に見える鎖が全てではない。重い法衣を纏い歩みながら、思う。触れて知れるだけが、全てではない。頭を垂れる人の間を進みながら、苦く噛みしめた。「永久に栄えあれ」崇拝という名の束縛は、精神と肉体を磨耗させる。神の御許へ一刻も早くと彼を追い立てるように。(tkuszono)

098:地図

  • 「ここの角曲がって、自販機の横を抜けてー」「あの、詳しく描いていただけるのは嬉しいんですが……」「何この落書きにしか見えないの」「確実に道に迷いますね」(ricka_kus)
  • たとえば。と、彼女はカーナビを指さして言った。「ドロシーなら地図を頼りに目的地へ行くわね。アリスなら、地図を信じないで自分のいきたい道を行くんだわ」彼女はにこりと笑ってナビの電源を落とした。「私は、アリス的なの」(hakorua)

099:別離

  • 僕らが違う夢を追いかけていたなら、きっと今日はこなかった。もう二度と出会うこともなかった。再会は雪空の路地で、君はそれよりずっと静かな目をして言った。「他になかったんだろうか」僕は銃の重さに耐えかねて腕をおろす。せめて銃弾だけこの体に残して、去って。(border_sky)
  • 屋上にある小さな温室でひと時の逢瀬を楽しんでいたあの頃に、もし時計の針を逆さに巻くようにして戻れたら…。すれ違ったまま別れた彼に「ごめんね」なんて、今更遅すぎるね。無碍に折った花は虚しく花弁を散らし、実を結ぶこともない。(hakorua)
  • うつろわぬ季節にまどろむ城の、庭で。「私と別れるか、王国を捨てるか。選べと言われれば、貴方はどちらを選ぶかしら」 戯れに魔女より提示された別離に、騎士は苦渋の表情を浮かべる。選べるのならば、とうに選んでいる。王への忠義も、愛も。心ある故悩むのだ。(tkuszono)

100:永遠

  • 夏の終わり、青空の下、花束を抱えて君への道を征く。あの日わたしは恋をした。そしてそれは永遠になった。綺麗ぶった神様の恋だ。生ぬるい風が頬を撫でる。わたしは笑った。それは黙ったままの君の代わり、愛している、の声だと知っていた。(saezimasin)
  • 大晦日の遊園地、花火が上がり新年へのカウントダウンが始まる中、彼が訊く。「答えは?」選択を迫られていた彼女は少し慌てて「はい」と答え、「ハネムーンは北海道がいいな」と笑った。そして今、彼と彼女も新たな年明けを迎える。(hakorua)
  • 魔女は夢見る。狂おしき星の野に眠り夢見る。おお、ジルサール、ジルサール。私の愛しい方。永遠に私を苦しめる愛しい方。あの夏の夜、うつくしい夜のひとときを繰りかえし、また貴方は私を殺めるのです。繰りかえし繰りかえし、永遠に貴方は私を殺め続けるのです…。(tkuszono)

100/100!!