遠州 照葉樹の森 小笠山'11.12.13 晴

 この時期ともなりますと植物たちも常緑樹が元気ですが、今回はそんな常緑広葉樹である照葉樹の森としてあまりにも名高い静岡県掛川市南部の小笠山(264.4m4等三角点)を訪ねました。

 もっとも所属のガイド協会によるエコツアー研修の一環としてなのですが、なかなかもってして植物相豊かで、まさに照葉樹の森の代表の山?といわれる所以の山域であり、そのほか歴史、地形、古道、文化などエコツアーにぴったりの里山でした。

 まずは歴史的な面からはいりましょう。今日の小笠山には昔、徳川家康が造った砦跡が4等三角点埋まる山頂にあります。戦国時代に家康と武田信玄、勝頼親子が駿河・遠州の覇権争いを繰り広げた場所でもあったのです。
 この小笠山砦遺跡は高天神城を攻めるために築かれた砦だといわれています。その高天神城跡は小笠山から南東の高天神山(132m)にあります。その時代には高天神城を制するものは遠州を制するといわれるほど重要な城であったとのことです。
 家康はこの高天神城をめぐり天正9年(1581年)まで10年の間に3度も戦をかさね、その間に高天神城の周囲に6箇所も砦を築きましたが、その中のひとつが小笠山砦でもあったのです。
 その結果、高天神山の武田軍の多くの戦軍全員が玉砕したといわれます。それは長篠の戦いの6年後、1581年の高天神城の戦いのときであります。
 このような歴史をもつ小笠山を歩いてみると、現在は山頂こそ疎林に囲まれて展望に泣きますが、少し進んだ展望地に立つと南側の高天神城一帯の大パノラマが広がっており、この場所が砦として最適で重要な地であったことが分かります。

 次に小笠山における植生の特徴についてふれてみましょう。まず一般論として照葉樹、それは論理的には自然林が丘陵地では常緑広葉樹であるスダジイ、ツブラジイの林で、山地ではアカガシ、アラカシ、ウラジロガシなどのカシ林になります。
 しかし小笠山の奇異な点は里山の低山であるにもかかわらず、やや高いところに出現する山地性のアカガシ林の大木、古木が多聞神社付近に見られことにあります。以前はアカマツの林が広がっていたようですが、マツノザイセンチュウの被害でほとんどが枯死してしまったとのことです。

多聞神社のアカガシの古木
アカガシの大木の板状の根を解説するU講師

 さらに特異的な面ですが、それは遠州灘の海岸から約9kmも北へ離れるにもかかわらず海岸性のウバメガシの大繁茂が見られるなどが大きな特徴であります。
 これはこの山が昔、海進で小笠山の麓近くまで海であった時代に侵入し、その後、海水面が下降した後も、海岸に似た環境である岩上に生き残ったと推定されるとのことです。

ウバメガシ(ブナ科コナラ属)の純林

 ウバメガシは本来暖地の海岸近くの山地断崖乾燥地を好んで生育します。また植栽用途として街路樹や生垣によく使われ、材はかたくガラスに傷がつくほどです。用途として炭の最高級品といわれる備長炭の原料で、かたくて火持ちがよいといわれます。

 私もこれまで和歌山の雲雀山や沼津アルプス鷲頭山などでウバメガシの樹林に出会っていますが、これらの比ではない大規模な状態となっているようです。

葉は厚く革質 樹皮は縦に浅く裂ける。 頂芽と頂生側芽の冬芽

 さて、照葉樹はアカガシ、ウバメガシ以外では、ツブラジイ、アラカシ、タイミンタチバナ、ヤブツバキ、ヤブニッケイ、ソヨゴ、ヤマモモ、アセビ、ヒイラギ、タブノキ、サカキ、シキミ、カゴノキ、エゾユズリハ、カクレミノ、ネズミモチ、ヒサカキなどが自生しているようです。
 今日歩きながら出会った樹種ではヤマモモ、タイミンタチバナ、サカキ、ヤブツバキは特に多くありました。それにアラカシ、ツクバネガシ、ソヨゴ、エゾユズリハなどが比較的、目にした種でした。さらにキヅタの赤紫褐色の果実やまだ薄緑色の細長い豆のような果実を下げたテイカカズラも目にしました。
 さらにヤブコウジ、マンリョウ、センリョウ、ソヨゴ、シロダモ、ムラサキシキブの果実も目にしました。

稜線に多く見たタイミンタチバナ(ヤブコウジ科)、細い頂芽は葉芽で丸いのは花芽
キヅタ(ウコギ科)別名フユヅタ テイカカズラ(キョウチクトウ科)

 また夏緑樹では、ヤマザクラ、ウワミズザクラ、コナラ、リョウブ、クリ、ハリギリ、タカノツメ、サンショウ、ネジキなどで、低木ではモチツツジ、ヤマツツジ、ミツバツツジ、コバノミツバツツジ、キヨスミミツバツツジ、ヒカゲツツジなどのツツジ類の種類が多いそうです。
 その他ではカマツカ、キブシ、ツクバネ、マルバウツギ、ウツギ、ガマズミ、コバノガマズミ、コアジサイ、ムラサキシキブなどがあるとのことでしたが、これらの中で気がついたのはヤマザクラ、コナラ、リョウブ、クリ、タカノツメ、モチツツジ、マルバウツギなどでした。

 それに山野草では、珍しい絶滅危惧種でもあるウマノスズクサ科のイワタカンアオイ(磐田寒葵)が沢山葉を広げており、落ち葉を除けて開花状態を調べてみると中には早くも開花している固体もありましたが、薄暗くてうまく撮影できなかったのは悔やまれました。

 また果実や枯葉などを確認できた種としてはカラスウリ、スズメウリ(ウリ科)、ハナミョウガ(ショウガ科)、ヤブミョウガ(ツユクサ科)、イチヤクソウ(イチヤクソウ科)、キッコウハグマ(キク科)などを目にしましたが、花時にはさらにいろいろな種が見られるとのことでした。

 最後に古道の腹摺峠まで降りて、今では平らな一帯でありながら小さな地蔵様がぽつりと寂しげに祀られている以外には人工物もすっかり跡形もなくなっている地でした。ここには昭和30年ころまで茶屋もあったようで、さぞ古のころには要衝の地だったことでしょう。

 この地で滑落者の引き上げレスキュー訓練も実施しましたが、すっかり暗くなりかけるほど熱心に繰り広げられました。このような訓練の重要性を身にしみて感じることもできました。

 後は倒木などで荒れた道を4~50分ほど下ることとなり、無事に研修を終えることができました。

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